ガラスの靴じゃないけれど


でも光が丘駅北口の活気を取り戻すためには、再開発は絶対に必要だ。

相反する思いが私の中で入り乱れて、もう真っ直ぐに彼の顔を見られなかった。

「失礼します」

小走りをして店のドアを開けた私は、逃げるように靴工房・シエナを後にした。

彼に拒絶されたからには、もう靴工房・シエナには行けない。

この光が丘駅北口商店街にも、仕事以外で訪れることもないだろう。

時に優しく。時に口悪く。私に接してくれた彼と会うのもこれで最後だと思うと、何故か寂しく感じている自分に気付く。

その時。

「----さん!」

私を呼ぶ誰かの声と、パタパタと走る足音が、後ろから聞こえてきた。

もしかしたら彼が、私を追い駆けてきてくれたのかもれない。

きっと、あの跳ね上がった髪の毛を掻きながら、照れくさそうにこう言ってくれるはず。

『少し言い過ぎた。悪かった』と。

私は駅に向かって進めていた足を止めると、期待に胸を膨らませながらゆっくりと振り返る。

そこに居たのは......。

「お嬢さん...ちょっと私と話を...してくれ...ないかね」

走ったせいで丸縁メガネがズレてしまい、息も絶え絶えにしている山本時計店のゲンさんだった。


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