ガラスの靴じゃないけれど
「...本当は1ケ月後に直してくれる約束だったんです。でも敵である私のパンプスは直せないって言われました」
「敵なんていう言葉を使うようじゃ、アイツもまだまだガキだな」
首を左右に振ったゲンさんは、深いため息を吐き出した。
「お爺様の跡を継いだ大切なお店を奪ってしまおうとしている私たちは、響さんにとって敵なんです」
「死んだミッちゃんの話を聞いたのかね?」
「ミッちゃん?」
「五十嵐満(いがらし みつる)。響の死んだジイさんの名前さ」
「名前までは知りませんけど、随分前に亡くなったとは聞いています」
ゲンさんの家の居間は、障子一枚を隔てて店と繋がっている。
その段差に腰を下ろして会話を交わしていた私は、懐かしむように遠くを見つめるゲンさんの話に耳を傾けた。
「あれは響が5歳の時だった。車の事故で響の父親と母親が死んでしまってな。後部座席に乗っていた響だけが助かった」
彼の過去に、そんな悲しい出来事があったことを初めて知った私は衝撃を受けた。