ガラスの靴じゃないけれど
「ひとりになってしまった響を引き取ったのが、ミッちゃん夫婦だ。だからワシも響を孫のように思っている」
彼のお爺様であるミッちゃんの話をするゲンさんの表情はにこやかな反面、どこか悲しみを含んでいるように私には見えた。
きっとそれは楽しかった過去と、今は亡き人を偲んでいるから。
「響は自分を育ててくれたミッちゃんが開いた工房を何とか守ろうと必死なのだろう。敵だとか言ってお嬢さんを傷付けてしまってすまなかったね」
私が住民説明会でお尻を触られた時のように、自分が悪くないのに謝るところなど、ふたりはそっくりだと密かに思う。
「いえ。ゲンさんも響さんも悪くありません。でも私は光が丘駅の北口が再開発されることも悪いことだとは思えないんです」
「お嬢さん。名前を教えてくれないかね?」
「一条若葉です」
「若葉さん。あなたは正直で素直な人だ」
唐突に褒められた私は、照れくささを感じてしまう。
「いいえ。そんなことありません」
「いや。若葉さんと話していると若返った気分になる。どうだろう?来週もこの店に来てワシと話をしてくれないかね?」