ガラスの靴じゃないけれど
五十嵐響に会うことと、靴工房・シエナを訪れることは望月さんに禁止されてしまった。
けれどゲンさんに会うことと、山本時計店を訪れることは禁止されていない。
屁理屈を並べた私は約束通り、梅雨の晴れ間の日曜日に光が丘駅北口商店街を訪れた。
彼とは先週、気まずく別れたまま。
靴工房・シエナと彼の様子がどうしても気になってしまった私は、山本時計店に向かう前に、モスグリーン色の外装の店にそっと近寄った。
でも木目調の扉からは、中の様子を窺うことはできない。
それならば、と、縦長の窓からコッソリと店内を覗くことにした。
明るい外から暗い店内を覗いてみても、中の様子はハッキリ見えない。
それでも作業をしている彼の姿をひと目見たいと思った私は、目を細めて店内をじっと見つめた。
暗がりに慣れた私の目に映ったのは、椅子に腰を下ろしている女性の姿。
私に背中を向けていたのにもかかわらず、女性だとわかったのはウエーブがかかった長い髪の毛のせい。