ガラスの靴じゃないけれど


五十嵐響に会うことと、靴工房・シエナを訪れることは望月さんに禁止されてしまった。

けれどゲンさんに会うことと、山本時計店を訪れることは禁止されていない。

屁理屈を並べた私は約束通り、梅雨の晴れ間の日曜日に光が丘駅北口商店街を訪れた。

彼とは先週、気まずく別れたまま。

靴工房・シエナと彼の様子がどうしても気になってしまった私は、山本時計店に向かう前に、モスグリーン色の外装の店にそっと近寄った。

でも木目調の扉からは、中の様子を窺うことはできない。

それならば、と、縦長の窓からコッソリと店内を覗くことにした。

明るい外から暗い店内を覗いてみても、中の様子はハッキリ見えない。

それでも作業をしている彼の姿をひと目見たいと思った私は、目を細めて店内をじっと見つめた。

暗がりに慣れた私の目に映ったのは、椅子に腰を下ろしている女性の姿。

私に背中を向けていたのにもかかわらず、女性だとわかったのはウエーブがかかった長い髪の毛のせい。


< 109 / 260 >

この作品をシェア

pagetop