ガラスの靴じゃないけれど
覗き見なんて悪趣味だと思いつつも、好奇心の方が勝ってしまう。
私がさらに店の奥を覗き込むと、腕を組みながらカウンターに寄り掛かっている彼の姿が確認できた。
しかも、その顔は満面の笑みと呼ぶに相応しい表情を浮かべている。
蜂蜜のように艶やかに光るライトブラウンの長い髪の毛と、少年のような彼の笑顔が眩しい。
いったい、ふたりはどんな関係で、どんな会話をしているのだろうと気になった時。彼と、窓越しに視線が合ってしまった。
一瞬のうちに、彼の顔から笑顔が消え去る。
また彼を怒らせてしまったと思った私は靴工房・シエナに背中を向けると、ゲンさんが待つ山本時計店に向かって走った。
山本時計店を訪れた私を出迎えてくれたのは、ゲンさんだけではなかった。
「住民説明会で受付をしていた野口不動産の若葉さんが来ると自慢したら、こんなに人が集まってしまってね」
ゲンさんの言葉通り、山本時計店の奥の居間を覗けば、数名のお年寄りが座卓を囲んでいる。
その中には、私のお尻を触ったシゲさんの姿もあった。