ガラスの靴じゃないけれど


もしかすると、私が作業を見学させてもらった時に制作していた、あの赤いパンプスを受け取りに来たのかもしれない。

彼の好みのタイプは赤いパンプスが似合う、色気のある大人の女性。

望月さんという素敵な彼氏がいるにもかかわらず、何故か落胆している自分に気付いた。

「響ちゃんも人妻なんか相手にしていないで、可愛くて若い女の子をお嫁にもらえばいいのにねぇ」

「え?相手の方って人妻なんですか?」

「そりゃ、マダムって言うくらいだし。ねえ」

座卓を囲んでいたお年寄りたちは、お互いの顔を見つめ合いながら何度も頷いた。

「響ちゃんには申し訳ないと思うけれど、正直ね。私たちはこの商店街が取り壊されても仕方ないと思っているんだよ」

「うちなんか、とっくに店も閉めているし、補償金をもらった方が得だしね」

「そうそう。うちはその資金で家を建てて、子供と孫と同居しようと思っているんだよ」

再開発に反対している住民が多いと思っていた私にとって、次々に打ち明けられる話は衝撃的だった。


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