ガラスの靴じゃないけれど
望月さんを始めとした再開発プロジェクトチームの人たちは、このことを知っているのだろうか。
思わず仕事のことが脳裏に浮かんだ時。店内の椅子に座っていたゲンさんがポツリと口を開いた。
「響は靴作りの腕も一流だし、固定客もいる。こんな寂れた商店街で商売するより店を移転させるか、再開発で建つビルにテナントとして入った方が売り上げも上がるだろうに」
ゲンさんの声は小さく、どことなく寂しげだ。
「響さんがこの商店街にこだわるのは、やはりお爺様のお店を残したいからですか?」
「まあ、そうだろうな。でも再開発に反対する原因はそれだけじゃない」
お店の存続以外の原因が思い浮かばなかった私は、ゲンさんに向かって首を傾げる。
「ああ見えても響は律儀なヤツでな。自分を育ててくれたミッちゃんが果たせなかった夢を叶えようとしているのだろう」
「お爺様が果たせなかった夢?」
「おっと。悪いが今のことは聞かなかったことにしておくれ。歳を取るとつい、しゃべり過ぎていかんな」