ガラスの靴じゃないけれど


本当は根掘り葉掘り、その話を聞きたかった。

けれど私が問いただしたところで、ゲンさんがすんなりと口を開くとは思えない。

ゲンさんから話を聞き出すことを断念した時、驚く言葉が耳に届いた。

「まあ、響が再開発に反対する一番の原因は、ワシだがな」

「ゲンさんが原因?」

大きなため息を付きながら肩を落としたゲンさんは、丸縁メガネを外すと指先で目頭を押さえた。

「ワシには子供がいない。この歳じゃ、時計店を再オープンさせることもできない。女房に先立たれて身寄りがないワシのことを思って、響は再開発に反対しているんだよ」

様々な事情を抱える人がいる中、再開発に賛成する人もいれば、反対する人もいる。

みんなが幸せになれる選択ができることが理想だけれど、単純にいかないのが現実だ。

「若葉さん。つまらない話を聞かせてしまって悪かったね。そうだ。美味しいおまんじゅうがあるんだよ。それを食べながら楽しい話をしよう」

そう言ったゲンさんは丸縁メガネを掛けると居間に上がり、茶箪笥からおまんじゅうの箱を取り出す。

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