ガラスの靴じゃないけれど
少しだけしんみりしていた雰囲気も、ゲンさんのお蔭で和やかなものに変化した。
「若葉さんは彼氏いるの?」
「え?まあ。はい」
「あら。ガッカリ。響ちゃんとお似合いだと思ったのに」
どこがどうお似合いなのか、さっぱりわからない私は愛想笑いをするしかない。
「その彼氏と結婚するの?」
「え?結婚?」
「もう両親には紹介したの?」
「え?紹介?」
「若葉さんなら文金高島田が似合うと思うわ」
「いや、いや。最近の若い人は教会で式を挙げるのが理想らしいじゃない」
どんどん飛躍する話に、もはや私はついて行くことができない。
「こら、こら。若葉さんが困っているじゃないか」
私に助け舟を出してくれたのは、ゲンさん。
でも......。
「それで若葉さん。相談なんだが、響に誰かいい女性(ひと)を紹介してはくれませんかね?」
「ええ?」
山本時計店の奥の居間に響き渡るのは、賑やかな笑い声。
この後も話に花が咲き、和気あいあいとした時間が過ぎていくのだった。