ガラスの靴じゃないけれど


でも喉を鳴らしながら飲んでいるのは、シュワシュワと泡立つ琥珀色の液体。

「松本チーフって、まさか雰囲気で酔っちゃうタイプですか?」

「は?」

「だって、それってジンジャーエールですよね?」

私の言葉を聞いた松本チーフは、手にしているグラスを見つめると大きな笑い声を上げた。

「これはハイボール」

「ハイボール?」

「へえ。ハイボールを知らないのか。さすがお嬢様。ハイボールはウイスキーのソーダ割りだよ」

私のことをお嬢様と呼んだ松本チーフも望月さん同様、父親が役員だという事実を知っていることが判明した。

でも、今さらそんなことを気にしても仕方ない。

だって、今、私が気になって仕方がないことは、望月さんと溝口さんの近すぎる距離なのだから。

横目でふたりを見つめながら、スクリュードライバーをグイッと飲み干す。

「おっ!いい飲みっぷりだね。すいません!お代わりください!」

もう松本チーフが勝手にオーダーするのを止めることすら、面倒くさい。

右耳から入り込み、左耳に流れ出てしまう松本チーフの話に適当に相槌を打ちながら、新たに運ばれてきたスクリュードライバーに口を付けた。


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