ガラスの靴じゃないけれど


部長が席から立ち上がり、小難しい話をしていたことは覚えている。

けれど、その内容までは覚えていない。

「一条さん?大分酔っているみたいだけど、大丈夫?」

松本チーフを始め、周りの人たちが次々に席を立ちあがる姿を目にした私は、飲み会がお開きになったことを理解した。

奥のテーブルに視線を向ければ、望月さんと溝口さんが同時に席を立つ。

たった、それだけのことなのに、私の胸がズキンと音を立てた。

「一条さん。ひとりで立てる?」

松本チーフは私の腕を掴んで、立ち上がるのを手伝ってくれる。

でも想いのない人に身体を触れられても、鬱陶しいだけ。

「大丈夫です。あの。私、トイレに行って来まふ」

呂律が回らないことを自覚しながらも、やんわりと松本チーフの手を払い除けた私はゆっくりとトイレに向かった。


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