ガラスの靴じゃないけれど
飲み過ぎてしまったことを後悔しながらトイレの鏡を覗き込めば、顔が真っ赤になっていた。
ほんのりと頬が染まる程度なら可愛げがあるのかもしれないけれど、今の私はどこから見ても飲み過ぎてしまったイタイ女子だ。
ため息交じりに「ふぅ」と息を吐き出しながら手を洗っていると、ひとりの女性が隣にスッと立った。
彼女はバッグの中から紫色のポーチを取り出すと、形の良い唇にグロスを落とす。
見る見るうちに艶やかに光り出す彼女のその唇が、私に向かって冷たく動いた。
「役員の娘だか知らないけれど、早く地味な総務部に戻りなさいよ」
「え?」
鏡の中の私に向かって、いきなり暴言を吐いたのは溝口陽菜さん。
以前から、ヘルプの私のことを邪魔だと思っていたのかもしれない。