ガラスの靴じゃないけれど


いつもの私なら仕事ができる溝口さんに委縮してしまい、きっと何も言い返すことができなかったはず。

でも今の私はアルコールのせいで、怖いもの知らずだ。

「総務部の仕事を馬鹿にしないでくらさい!」

「はぁ?アンタ酔っ払ってんの?」

「酔っ払っていません!いいですかぁ?仕事に派手とか地味とか関係ありませんから!」

「ちょっと!大きな声出さないでよ!もういいわ。酔っ払いと話なんかできないわ」

ポーチをバッグにしまうと、溝口さんは足早にトイレから出て行ってしまった。

つい、熱くなってしまったのは、アルコールのせいだけじゃない。

望月さんの隣があまりにも似合い過ぎる溝口さんに、私は嫉妬したのだ。

鼻先をくすぐる溝口さんのフローラルの残り香があまりにも女らしくて、鏡に映り込んだ子供染みた自分が嫌になった。

< 122 / 260 >

この作品をシェア

pagetop