ガラスの靴じゃないけれど
いつもの私なら仕事ができる溝口さんに委縮してしまい、きっと何も言い返すことができなかったはず。
でも今の私はアルコールのせいで、怖いもの知らずだ。
「総務部の仕事を馬鹿にしないでくらさい!」
「はぁ?アンタ酔っ払ってんの?」
「酔っ払っていません!いいですかぁ?仕事に派手とか地味とか関係ありませんから!」
「ちょっと!大きな声出さないでよ!もういいわ。酔っ払いと話なんかできないわ」
ポーチをバッグにしまうと、溝口さんは足早にトイレから出て行ってしまった。
つい、熱くなってしまったのは、アルコールのせいだけじゃない。
望月さんの隣があまりにも似合い過ぎる溝口さんに、私は嫉妬したのだ。
鼻先をくすぐる溝口さんのフローラルの残り香があまりにも女らしくて、鏡に映り込んだ子供染みた自分が嫌になった。