ガラスの靴じゃないけれど
タクシーは渋滞することなく、私の家に向かって順調に走り続けている。
少しだけ開けた窓から入り込む風が火照った頬を冷やしてくれて、フワフワしていた気持ちが落ち着きを取り戻した。
思いがけず、ふたりきりになれたことは嬉しいけれど、やはり気になってしまうのは溝口さんのこと。
「望月さん?溝口さんと何を話していたんですか?」
「ん?仕事のことだけど」
「それだけじゃないでしょ?ふたりで仲良さそうに笑っていたじゃないですか」
つい口調が荒くなってしまったのは、やはり嫉妬のせい。
こんなところがやはり子供っぽいんだと自己嫌悪に陥り、俯いた私を見た望月さんがクスッと笑った。
「若葉?もしかしてヤキモチ?」
「そんなんじゃありません!」
「なんだ。残念」
軽い口調で話す望月さんを見ていたら、溝口さんのことを気にしすぎている自分が滑稽に思えた。
望月さんは二次会にも行かずにタクシーを呼んで、私を待っていてくれた。