ガラスの靴じゃないけれど
これが愛じゃなくて、何を愛だというの?
少し大袈裟になってしまうのは、まだ抜け切っていないアルコールのせいかもしれないと思った。
ついさっきまで優しい笑みを浮かべていた望月さんの表情が一転したのは、タクシーが赤信号で停まった時。
後部座席の窓枠に肘を付いて、手で口元を覆った望月さんは、交差点を行き交う人々の姿に視線を向ける。
「俺は若葉とチーフが楽しそうにお酒を飲む姿を見たら、凄く悔しかったよ」
「望月さん...それって」
「若葉の前では常に格好良く居たいのに、どうも調子が狂うよ」
ヤキモチという言葉は口にしなかったけれど、明らかにこれは望月さんの嫉妬。
この面倒くさい感情に振り回されていたのが自分だけではなかったことが嬉しくて、大胆にも私は隣の望月さんの大きな手を自ら握った。
「若葉。やっぱり酔っているね」
「酔っていません」
「いや。恥ずかしがり屋の若葉の方から手を握ってくるなんて、酔っている証拠だよ」