ガラスの靴じゃないけれど
青信号になるとタクシーは走り出す。
流れる外の景色から視線を私に移した望月さんはクスッと笑うと、頭を優しく撫でてくれた。
「でも酔っている若葉も可愛くて好きだよ」
粉砂糖のように甘い望月さんの言葉は、スクリュードライバーよりも強烈に私を酔わせる。
もう酔いは醒めたと思っていたのに、またフワフワした気持ちになってしまった私は、望月さんの肩に頭をちょこんと乗せた。
タクシーの心地良い揺れと望月さんの体温は、容赦なく私を無防備にする。
「若菜。門限を過ぎちゃったけど、大丈夫?」
「あ。今日は飲み会だから...帰りは遅くなるって...言って...きました」
次第に瞼が重くなっていくのを感じながらも、望月さんのこの質問には何とか返事をした。
でも......。
「若葉?じゃあ、今から行き先を変更してもいい?」
すでに夢の世界に片足を踏み込んでしまった私は、遠くから微かに聞こえる望月さんの言葉を聞きながら瞳を閉じた。