ガラスの靴じゃないけれど
まだ身体がフワフワと宙を漂っているような感覚がするのは、酔っているからだと思った。
「若葉。綺麗だよ」
「ぅん...」
聞き慣れない褒め言葉に戸惑いながら瞼を開くと、望月さんの後頭部が目に映り込む。
その望月さんの頭が小刻みに動いているのは、私の胸の上。
フワフワと宙を漂っているような感覚がしたのは、ベッドのスプリングのせいだということを理解した。
「な...んで?」
掠れた声で呟けば、動きを止めた望月さんが顔を上げる。
「ん?若葉?どうした?」
「ど、どうしたって...」
靄がかかったような眠気がさっと引くと同時に見えたのは暗がりの中、縁なし眼鏡を外している望月さんの顔。
本当だったら初めて見る望月さんの素顔にときめくはずなのに、一糸まとわない自分の姿を目にしたら、顔から血の気が引いた。
両手で胸を隠して慌てて上半身を起こしてみると、床にはスーツとカットソーに下着とストッキングが散らばっている。
そして私の身体に覆い被さっていた望月さんは、程よく鍛えられた裸体を惜しげもなく晒していた。