ガラスの靴じゃないけれど
「ラブホテル。本当なら普通のホテルに連れて行きたかったんだ。でもふらついた若葉を支えたままチェックインできるのはラブホテルしか思い浮かばなかった」
今まで背中を向けていた望月さんは振り返ると、シーツで身体を隠している私の姿をじっと見つめた。
「言い訳するつもりじゃないけれど、無理矢理じゃないから」
「も、もちろん、望月さんが強引にそんなことをする人じゃないって、わかっていますから」
望月さんには悪いけれど、未遂のままで終わってくれてホッとしている自分がいた。
やはり望月さんにすべてを捧げる時は、アルコールに酔っている時ではなく、甘くとろけるような雰囲気に酔いたい。
「望月さん。迷惑掛けてすみませんでした」
「迷惑だなんて思っていないよ。でも....」
「でも?」
「若葉は男という生き物を、ちっともわかっていない」
ついさっき掛けたばかりの縁なし眼鏡を外した望月さんの瞳が暗がりの中、妖しく光る。