ガラスの靴じゃないけれど
「若葉ちゃん?食欲ないわね。仕事が忙しいの?」
Aランチ定食のたらこパスタを残してしまった私を気遣ってくれたのは、総務部で一緒だった二つ年上の佐和子先輩。
「仕事はそれほど忙しくありません」
「だったら、身体の調子が悪いとか?」
心配げな表情を浮かべている後輩の有紀ちゃんの言葉に、私は黙ったまま首を横に振った。
「仕事で疲れているわけでもなく、体調が悪いわけでもない。残る理由はただひとつね」
社員食堂のテーブルを挟んで、私の目の前に並んでいるふたりは顔を見合わせると、フムフムといった感じで頷き合った。
「若葉ちゃん!」
「若葉先輩!」
「「ズバリ、恋の悩みでしょ?」」
『ズバリ』なんて言葉をハモらせるふたりが可笑しくて、つい笑ってしまった。
けれど、ふたりの鋭い指摘を否定できなかった私は黙ったままコクリと頷く。
「若葉ちゃん。今日、仕事が終わったらコリアンキッチンに行くわよ」
「え?」
コリアンキッチンとは、駅前にある韓国料理屋さんの名前。
「ハッキリ言って、恋愛のことなら若葉先輩よりも年下のアタシの方がスキル高いですからね」
自信満々に胸を張る有紀ちゃんに反撃できないことが、ちょっぴり悔しかった。