ガラスの靴じゃないけれど


ランチタイムに約束した通り仕事終わりに合流した私たちは、しとしとと雨が降る中、傘を差しながらコリアンキッチンに向かう。

このお店のサムギョプサルはとても美味しくて、テレビや雑誌に何度も紹介されている。

だから、常に行列ができている。

でも、そこはぬかりない。

ランチタイムが終わった後【ネット予約をしたから】というメールが佐和子先輩から届いたのだ。

仕事帰りの女子やサラリーマンが傘を差しながら列に並んでいる中、私たちはコリアンキッチンの自動ドアをくぐる。

係の人に案内されて向かった先は、駅前のバスロータリーが見下ろせる二階席だった。

「何飲む?」

佐和子先輩が差し出すドリンクのメニュー表を見た私は、ついこの前、開発事業部で飲み過ぎたイタイ経験が脳裏に浮かぶ。

「私はウーロン茶で」

「若葉先輩!何言っちゃってるんですか?!まずはビールで乾杯でしょ?すいません!」

勢いよく店員さんを呼ぶ有紀ちゃんの姿が、この前の飲み会の松本チーフの姿と被る。

「取りあえず生中を三つ」とオーダーを済ませる有紀ちゃんは、何故かとても男前だ。

「サムギョプサルでしょ。それからトッポギでしょ」

「あ。私、チヂミ食べたい」


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