ガラスの靴じゃないけれど


アレコレとメニュー表を見ながらオーダーをしていると、生中が運ばれてきた。

「乾杯!」

いつも社員食堂で顔を合わせているけれど、場所が変わると何故か新鮮に感じる。

黄金色の冷たい液体で喉を潤すと、生中のジョッキをテーブルにドンと置いた。

「それで。若葉ちゃん。彼氏でもできた?」

穏やかに質問を投げ掛ける佐和子先輩には、営業部に同期入社した彼氏がいる。

恋の悩みを相談するのに彼氏ができたことを内緒にするわけにもいかず、私はコクリと頷いた。

「若葉先輩!相手ってどんな人なんですか?」

好奇心で瞳を輝かせている有紀ちゃんは、つい最近、年下の彼氏と別れたばかりらしい。

「歳は私より五つ上なの」

「うん。うん。それで?どこで出会ったの?」

佐和子先輩は運ばれてきたチヂミを小皿に取り分けながら、さらに突っ込んだ質問をしてくる。

「...会社です」

「ええ?まさか異動先の開発事業部の人とか?」

「...はい」

そこまで認めた私の前で、佐和子先輩と有紀ちゃんが目を丸くしながら顔を見合わせた。

「まさか、若葉ちゃんの彼氏って、望月さんじゃないわよね?」


< 138 / 260 >

この作品をシェア

pagetop