ガラスの靴じゃないけれど
「マジで?アンタ、客じゃないの?」
「え、ええ」
「っんだよ。紛らわしいな!」
紛らわしいって......あなたが勝手に勘違いしたんじゃないの!
そう、反論したい気持ちが瞬時に胸に湧き上がった。
けれど、山本時計店のご主人である老人の寂しそうな表情と、響という男が見せる悔しさが滲み出た表情を目にしたら......。
反論の言葉が自然と喉の奥に、引っ込んでしまった。
チクタクという時計の針が静かに時を刻む音だけが、輪唱のように店内に響き渡る。
その静寂を破ったのは、山本時計店のご主人の咳だった。
ケホケホと苦しそうな咳が止まらないご主人を見ていられず、思わず身体が勝手に動く。
「大丈夫ですか?」
少しでも早く咳が止まるように祈りながら、ご主人の背中を擦り続けた。
その私の隣では、響という男が心配げな表情を浮かべている。
ようやく咳が治まってきたご主人は、湯呑のお茶をゆっくりとすするとホッと息を漏らした。