ガラスの靴じゃないけれど
「いやっ」
望月さんの胸に両手を当てながら、顔を逸らしてキスを拒否してしまった。
「若葉?」
望月さんが不審に思うのは、当たり前。
私でさえ、たった今、自覚してしまった思いに戸惑っているのだから。
「ご、ごめんなさい」
「若葉?どうしたの?」
心配げに私の顔を覗き込む望月さんから、ゆっくりと足を後退させる。
動揺している私を見た望月さんは怪訝そうな表情を隠さないまま、冷静に口を開いた。
「黙っていたんじゃわからないよ。どうして俺を拒むの?」
ミーティングルームで望月さんの指が私の手の甲に触れた瞬間に感じたあのざわめきが、今また蘇る。
強く握られたわけじゃないのに、望月さんに触れられた両腕がヒリヒリと痛むような気がした。
きっと、これは拒絶反応。
自分の気持ちをこれ以上隠し通すことなどできないと思った私は、望月さんに向かって心情を打ち明けた。
「こ、怖いんです」
「怖い?何が?」
「望月さんが...」
「は?どういう意味?」
手を繋ぐことも、キスをすることも、今までは確かに平気だった。
それなのに......身体を重ねてしまったことが原因で、こんなことになるなんて想像もしていなかった。