ガラスの靴じゃないけれど


サンダルを脱ぐのをもどかしく感じながらようやく居間に上がると、横たわるゲンさんの元へ駆け寄る。

近くで見るゲンさんの顔色は蒼白で、息も絶え絶えとしていた。

「きゅ、救急車!」

私は焦りながら、バッグの中に手を突っ込んで携帯を取り出そうとした。

その私の手を、ゲンさんが力なく掴む。

「ひ...響を...ひ...びきを」

「響さん?わかりました。すぐ呼んできます」

意識もあるし、きっと大丈夫。

自分にそう言い聞かせた私は居間から転ぶように降りると、裸足のまま向かいの靴工房・シエナに走った。

引くのか押すのかすら、わからなくなるほど動転しながら、靴工房・シエナのドアを勢いよく開ける。

「響さん!」

「何だよ。騒々しいな」

作業していた手を止めると、彼は突然姿を現した私を迷惑そうに見つめた。

心の中では一刻を争うほど焦っているのに彼の顔を見た途端、安堵している自分に気付く。

彼がいてくれれば大丈夫。

そう思いながら、私は声を上げた。

「ゲ、ゲ、ゲンさ...」

「は?」

「ゲ、ゲンさんが!」

「...おい!まさか!」

動揺して説明すらまともにできない私の様子を察した彼は、椅子から立ち上がると一目散に店を飛び出す。

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