ガラスの靴じゃないけれど
搬送された総合病院の処置室の前の椅子に座りながら、ゲンさんが無事であることを祈り続けた。
そんな中、両手を握り合わせた私の隣から、無言で立ち上がった彼が姿を消す。
もしかしたらゲンさんが倒れたことを、誰かに連絡しに行ったのかもしれないと思った。
でも、私の予想は見事に外れる。
処置室の前に戻って来た彼が手にしていたのは、病院のスリッパ。
彼は私の前におもむろに跪くと、足首に手を伸ばしてきた。
何をされるのかわからなかった私の身体が一瞬、強張る。
でも、身に着けているデニム地のエプロンで私の足の裏を拭い出した彼の姿を見たら、自然と力が抜けていった。
「あ、ありがとうございます」
「いや。気付いてやれなくて悪かったな」
倒れているゲンさんに駆け寄る時に、アンクルストラップのサンダルを脱いだ私は、靴工房・シエナに彼を呼びに行った時も、救急車に乗り込む時も裸足だったと思い出す。
彼に足を触れられた私が胸に抱くのは、足の爪にマニキュアを塗っておいて良かったという乙女心。
こんな時なのに不謹慎だと自分を叱りながら、私は足元に置かれたスリッパに両足を忍び込ませた。