ガラスの靴じゃないけれど
その時、処置室の扉が開き、ストレッチャーに横になったゲンさんと看護師さんが姿を現す。
「ゲンさん!」
ストレッチャーに駆け寄った私が見たのは、細い腕に点滴が打たれたゲンさんの痛々しい姿。
ゆっくりと目を開けたゲンさんは、彼と私に向かってしっかりと頷いてくれた。
その姿に安堵していると、看護師さんの声が響く。
「山本源助さんの身内の方は?」
「はい。俺です」
「先生から説明がありますので、あちらの部屋にどうぞ」
彼は身に着けていたデニム地のエプロンを外すと、看護師さんの誘導に従って処置室の隣の部屋に向かう。
「おい。ゲンさんのこと頼むぞ」
「はい」
彼からエプロンを預かった私は、ストレッチャーに横になるゲンさんに付き添って病室に向かった。
六人部屋に運ばれたゲンさんの口元に装着されたのは、酸素マスク。
「若葉さん。迷惑掛けてすまなかったね」
ゲンさんが話すと白く濁る酸素マスクを見つめながら、私は首を横に振った。
「迷惑だなんて思っていません。とにかくゆっくりと休んで下さい」
私の言葉に頷いたゲンさんは、静かに瞳を閉じた。
その姿は山本時計店で見かけた時よりも、ひと回り小さく見える。