ガラスの靴じゃないけれど
いったい、ゲンさんの病状はどうなのか、どれくらい入院しなければならないのか、不安ばかりが胸に広がった。
その時、ベッドを仕切っているカーテンが静かに開き、彼が姿を現す。
「響...」
眠ったと思っていたゲンさんの声が、微かに病室に響く。
「ん?何?」
「ワシは大丈夫だ。若葉さんを家に送ってやれ」
自分が辛い思いをしたばかりだというのに、私のことを気遣うゲンさんの優しさが胸に沁み入った。
「私の心配なんかしないでください。それにもう少しゲンさんの傍に居たいです」
思わず涙が込み上げてしまった私の肩に乗せられたのは、彼の大きな節くれだった手。
「長居をしても病人が疲れるだけだ」
的確な指摘をする彼の言葉を聞いた私は、やっと冷静になることができた。
「ごめんなさい。ゲンさん。また来ます」
椅子から立ち上ってゲンさんを見つめれば、目を細めて頷いてくれた。
後ろ髪を引かれる思いで病室を後にした私について来てくれたのは、彼。
「響さん。私、ひとりで帰れますからゲンさんに付き添ってあげてください」
「ゲンさんの保険証とか着替えとか色々と用意しないとならない物があるんだよ。それにオマエ、スリッパで帰るつもりか?」
「あっ...」