ガラスの靴じゃないけれど


「響さん。私にゲンさんのお世話のお手伝いをさせてください」

「お世話と言うか、都合のいい日に顔を見せてやってくれないか?」

自分のことよりも、ゲンさんのことを最優先してしまう彼への返事は決まっている。

「はい。もちろん」

「忙しいのに悪いな」

「いえ」

ゲンさんが搬送された病院から光が丘駅北口商店街までは、タクシーで10分ほどの距離。

私たちを乗せたタクシーは、あっという間に山本時計店の前に到着した。

「ちょっと待ってろ」

彼は後部座席から外に出ると、山本時計店の中に入って行く。

その彼は数分もしないうちに、私のアンクルストラップのサンダルとバッグを手にしてタクシーに戻って来た。

「バッグの中身を確認しろ」

サンダルとバッグを受け取った私は、彼の指示に従って中身を確認する。

「大丈夫です。お財布も携帯もあります」

「そうか。えっと...それでオマエの家ってどこだっけ?」

「桜台駅ですけど」

私の返事に頷いた彼は、運転手さんに一万円札を素早く渡した。


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