ガラスの靴じゃないけれど
月曜日の朝。出社した私を待ち構えていたのは、松本チーフ。
ミーティングルームの片隅に積まれた段ボール箱をポンポンと叩くと、遠慮がちに口を開いた。
「一条さん。ちょっと面倒くさい頼みなんだが、この段ボール箱に入った書類の整理をお願いしたいんだ」
「は、はい」
「書類を種類別に分けたら日付順にファイルして欲しい。その際、担当者と上席者のサイン漏れがないかもチェックしてくれ」
松本チーフの指示は、さほど難しいものではない。
でも山と積まれた段ボール箱を見たら、作業を始める前から気分が萎えてしまった。
「あの。これって急ぎですか?」
私が抑揚なく質問すると、松本チーフは声を潜めた。
「実はさ、夏期休暇明けに内部監査が行われるっていう情報が入ったんだ」
「内部監査ですか」
「ああ。落ち着いたら整理しようと思っているうちに、こんなに溜まってしまってさ。できれば今週中に終わらせて欲しい。悪いな」
そんな事情を聞いてしまったら、残業しないわけにはいかない。
この書類の片付けが終わらないと、ゲンさんのお見舞いに行けないと判断した私は早速、作業を開始した。