ガラスの靴じゃないけれど
包み隠さない望月さんの想いを聞いた私は、自分に問う。
今の私は望月さんと笑い合い、キスをして、セックスできるの?と。
私は複雑な胸の内を、望月さんに打ち明けた。
「私、望月さんのことが嫌いになったわけじゃないんです」
揺らめく涙の先に見えるのは、縁なし眼鏡のブリッジを中指で押し上げる望月さんの姿。
その知性溢れる仕草を見るのは、今でも好き。
それなのに、身体は勝手に拒絶反応を示してしまう。
自分でもどうしたらいいのかわからないでいると、望月さんは小さく笑った。
「嫌いじゃないって言葉は便利だよね」
まるで独り言のようにポツリと呟いた望月さんは、分類した書類をデスクの上に置いた。
「若葉。俺たち少し距離を置こうか」
望月さんは私に向かってゆっくりと歩み寄ってくると、数歩手前で足を止めた。
望月さんと私は、これからもこのオフィスで顔を合わせる。
近すぎず、遠すぎないこの距離は、これからのふたりの関係を示唆しているように思えた。
口元には笑みを浮かべていても、縁なし眼鏡の奥の瞳には悲しげな色を見せる望月さんに、私はただ頷くことしかできなかった。