ガラスの靴じゃないけれど


山のように積み上げられていた段ボール箱も残業した甲斐があり、残すところあと10箱になった。

これなら今日は残業しなくて済むだろう。

ホッと一息ついた木曜日の午後4時。その出来事は予告もなく突然起きた。

ミーティングルームの外が何やら騒がしくなったのを感じた私は、そっとドアを開けると聞き耳を立てた。

「このタイミングとはな。確かあのジイさんはひとり暮らしだよな?」

「はい。奥さんはすでに他界しているし、子供もいないらしいですからね」

真剣な表情で話し合いをしているのは、松本チーフと望月さん。

部長は昨日から、大阪支社に出張中だ。

「で?葬儀は?」

「通夜は今日の18時からで、告別式は明日の10時からです」

「そうか。告別式は仕事で無理だから、参列するなら通夜だな」

「そうですね」

まさか。そんなはずはない。と、何度も自分に言い聞かせた私は、震える足で松本チーフの元に駆け寄った。


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