ガラスの靴じゃないけれど
ゲンさんのお通夜が終わった次の日の金曜日。
「はい。午後から出社します。お願いします」
朝一で遅刻の連絡を会社にした私が向かった先は、ゲンさんの告別式が営まれるお寺。
昨日はお通夜に参列できなかったことは、仕方ないと思った。
けれど、やはりゲンさんときちんとお別れがしたくて、こうしてお寺に来てしまったのだ。
私の姿を見たら、彼は昨日のように怒り狂うだろうか。
それでも、今日はせめてお焼香だけでもさせてもらおうと考えながら夏空の元、お寺の門をくぐった。
私が本堂の辿り着くと、シゲさんが真っ先に駆け寄って来る。
「今日はひとりかい?」
「はい。ゲンさんときちんとお別れがしたくて...」
「そうか、そうか。ゲンさんもきっと喜ぶだろう」
シゲさんに背中を押されて誘導された先は、棺の前。
促されるままに棺の窓から中を覗けば、私にはゲンさんが眠っているようにしか見えなかった。