ガラスの靴じゃないけれど
上品なユリと紫色のスターチスに可憐なカスミ草を組み合わせてもらった花束が、照りつける太陽の日差しに負けないように咲き誇る。
その花束を抱えて私が向かった先は、光が丘駅北口商店街。
昨日の告別式でゲンさんときちんとお別れすることができたのは、彼のお蔭。
その彼はゲンさんが居なくなってしまった今、どうしているのだろうと気になって仕方なかった。
山本時計店のガラス戸が開いていることに気付いた私は、そっと中の様子を窺う。
そこには扇風機の風に当たりながら、奥の居間で胡坐をかいている彼の姿があった。
「こんにちは」
遠慮気味に声を掛けると、彼は顔を上げた。
「仕事はどうした?」
「今日は土曜日で休みです」
「ああ。そうか。今日は土曜か」
先週の日曜日にゲンさんが入院をしてから、あっという間に過ぎてしまった一週間。
曜日の感覚が無くなるのも無理はない。
「あの。ゲンさんに挨拶してもいいですか?」
「ああ」
黒のバックバンドパンプスを脱いだ私は居間に上がると、安置された遺骨に花束を添えて手を合わせる。
仏壇には奥さんの写真とゲンさんの写真が、仲睦まじく並んでいた。
「ゲンさん。天国で奥さんと再会できましたかね」
「ああ。今頃、みんなで俺の悪口でも言ってんだろ」