ガラスの靴じゃないけれど
彼女が思わず口にした『今回は』という言葉にも引っ掛かりを感じたけれど、私がそれ以上に気になったのは彼の態度。
そんなにムキになって否定するのは、子供染みた私を彼女だと思われるのが恥ずかしいから?
遠回しに恋愛対象外だと言われたような気になった私の胸が、チクリと痛んだ。
そんな私の思いなど知らない彼は作業していた手を休めると、カウンターまで移動する。
「おい。紹介する。彼女は間宮咲子さんだ」
彼に手招きされてカウンターに向かった私に差し出されたのは、彼女の細くしなやかな手。
その右手の中指には、ゴージャスな大粒のルビーのリングが光り輝いていた。
ルビーの情熱的な赤い色は、マダムレッドと言うネーミングにピッタリだと思いながら握手を交わす。
「初めまして。咲子です。響とは高校時代の同級生なのよ」
今ではふてぶてしい態度を取ることが多い彼にも、青春真っ盛りの高校生の時があったなんて想像できないと思ってしまう。
「一条若葉です。よろしくお願いします」
握手を交わしていた手を離せば、彼女の左手の薬指にマリッジリングが光を放っているのが目に映った。