ガラスの靴じゃないけれど
高校時代の同級生だからといって、既婚者である彼女が、靴工房・シエナに何度も来店するのはおかしくない?
やはり、ふたりは不倫の関係なのかもしれないと考えていると、彼は箱から一足のパンプスを取り出した。
「わぁ!凄く素敵!」
ふたりの関係をアレコレ考えていたくせに思わず声を上げてしまったのは、そのパンプスがとても素晴らしかったから。
彼が箱から出したのは、鮮やかなブルーのオープントゥのパンプス。
ヒールの高さは、12センチはありそう。
興奮した私を見て笑うのは、彼と彼女。
息の合ったふたりを目の当たりにした私は、子供染みた反応をしてしまったことを後悔した。
「早速、履いてみてもいいかしら?」
「ああ。もちろん」
彼女はカウンターの鏡の前に置かれている、ブラウンの革張りのスツールに腰を下ろす。
そして膝下丈のペンシルスカートから伸びる、細く引き締まった足をパンプスに忍ばせた。
その瞬間、まるで命が宿ったかのように、ブルーのオープントゥのパンプスが光を放った。
スツールから立ち上がった彼女は正面と横と後ろからと、ありとあらゆる角度から自分の姿を鏡に映し出す。
その慣れた様子は、優雅で気品に満ち溢れていた。