ガラスの靴じゃないけれど
「いつも通り、いい履き心地。来週のパーティーに間に合って良かったわ」
既婚者の彼女が、まさか婚活パーティーに参加するはずがない。
いったい何のパーティーに出席するのだろうと首を傾げていると、鏡越しに彼女と目が合った。
「主人の仕事の関係で、夫婦同伴でパーティーに呼ばれることが多いのよ」
革張りのスツールに腰を下ろした彼女は、満足そうな笑みを浮かべながら、ブルーのオープントゥのパンプスを脱いだ。
その彼女の説明不足な部分を補うように、彼が口を開く。
「咲子のダンナは、エタリーノの社長だ」
「え?エタリーノって、あのエタリーノですか?」
オウム返しのような私の言葉を聞いた彼は、クスクスと笑い出す。
「多分、オマエが思っているエタリーノで間違いないだろう」
エタリーノといえば、輸入家具や雑貨を取り扱っている一流商社だ。
社長夫人ともなれば、様々なパーティーに招待されることも多いのだろうと納得をした。
「前に一度、色もデザインも気に入って衝動買いしたパンプスをパーティーに履いて行ったことあるのよ。でもね、すぐに足が痛くなっちゃって最後までパーティーに出席することができなかったの」