ガラスの靴じゃないけれど
確かに、足に合わないパンプスでパーティーに参加するのは辛いだろう。
そのパーティーが立食形式なら、尚更だ。
「そんな時、同級生だった響のお爺さんが靴屋さんだったことを思い出したの。思い切ってシエナを訪ねてみたら響が跡を継いでいるじゃない。驚いたわ」
彼女は、私の知らない彼をたくさん知っている。
それは仕方のないことだと頭では理解しても、やはり面白くない感情が胸の中で渦を巻いてしまうのだ。
外見だけではなく、精神的な部分まで子供染みている自分にガッカリしていると、彼女がため息を付いた。
「響が作る靴は最高よ。だから閉店されると困るのよね」
上得意である彼女の褒め言葉を聞きながら、彼はブルーのオープントゥのパンプスを箱にしまう。
そして、その箱を慣れた手つきで、手提げ袋に入れた。
「ねえ、響。この店を閉めたら、どうするの?」
確かに彼は、再開発に賛成の同意を示した。
けれど大切な場所である靴工房・シエナを彼から奪ったのは、間違いなく野口不動産株式会社だ。
その社員である私の心の片隅には、どこか後ろめたい気持ちが存在していて、これからのことをずっと聞けずにいた。