ガラスの靴じゃないけれど


だから、彼女が将来のことをサラリと口にしてくれたことが、とても有り難かった。

いったい、彼の口から語られるのは、どんな未来なのか。

私はドキドキと胸を高鳴らせながら、耳を澄ませた。

「実はな、しばらく旅に出ようと思っている」

「「旅?!」」

思いがけず声をハモらせてしまった私と彼女は、驚きながら顔を見合わせる。

「俺さ。ゆっくり旅したことがないんだよ。だから全国を津々浦々回りながら、温泉に浸かるのもいいかなって思ってさ」

まさか彼が、老後の生活のようなことを考えていたとは......。

驚きで固まってしまった私が声を出すことすらできずにいると、彼は癖のある髪の毛を掻き上げた。

「オマエさ。旅行ってよく行く方?」

「まあ、それなりには」

「そうか。でさ、また行きたいと思ったのは、どこだ?」

彼に質問された私の頭には、全国各地の観光地が浮かんだ。

けれど、やはりこの二カ所は外せない。

「北海道と沖縄は、もう一度行ってみたいです」

家族で訪れた夏の北海道も楽しかったし、修学旅行で行った沖縄も思い出深い。

またどこか、旅行に行きたいなぁ。と、脳内トラベルをしていると、彼女の大きな声が店に響いた。


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