ガラスの靴じゃないけれど
「そうね。再オープンの連絡じゃなくてもいいわ。何か困ったことがあったら、響の代わりに私が相談に乗るわ。ね?」
「響さんの代わり?」
「ええ、そうよ。子供でもスマホを持つ時代なのに、響ったら携帯を持っていないのよ。信じられないでしょ?」
彼女の無償の優しさを感じて心が温かくなった私は、差し出された名刺を受け取った。
「咲子さん。今度、響さんの高校時代の話を聞かせて下さい」
「もちろん。いいわよ。そうだ。卒業アルバムを見せてあげる」
「本当ですか?」
「ええ」
学生服を着た二十年前の彼の姿なんて想像できないと思っていると、あっという間に駐車場に辿り着く。
真っ赤な高級車のロックを解除した彼女は運転席に乗り込むとウインドウを開け、エンジン音に負けないような大きな声を張り上げた。
「最後に若葉さんにいいことを教えてあげるわ」
「いいこと?」
「響の好きな女性のタイプは、可愛らしい子よ」
「そ、そうですか」
「ええ。若葉さんみたいなね」
「え?」
驚く私を見て高らかに笑った彼女は、ププッとクラクションを二度鳴らすと商店街の駐車場を後にする。
真っ赤な高級車が見えなくなるまで見送った私は、頼れるお姉さん的存在である彼女の名刺をハート柄のエプロンのポケットに大事にしまった。