ガラスの靴じゃないけれど
ゲンさんの四十九日法要が無事に終わった、翌週の九月上旬。
靴工房・シエナで私がお手伝いをしているのは、靴作りではなく、撤収作業。
私が任されたのは、人の足形をした木型の梱包と箱詰め。
彼が丁寧に研磨してから梱包しているのは、今まで愛用していた様々な工具だ。
「あのミシンの梱包はどうするんですか?」
「あれはプロに任せることにした。ヘタに梱包して壊れたら大変だからな」
何故、梱包と箱詰め作業に追われているのかというと、靴工房・シエナの取り壊しが迫っているから。
箱詰めした物やミシンなどは、彼が契約をしてきたトランクルームに預けることになっている。
予約の靴を全部仕上げた彼は、どうやら本気で旅に出るようだ。
その証拠としてカウンターの上には、ロードマップが置かれている。
棒付きキャンディーをくわえながら、鼻歌交じりに梱包作業をしている彼からは、靴工房・シエナが取り壊されてしまう寂しさや悲しみなどの感情は伝わってこない。
むしろ、この先の旅が楽しみで仕方がないように思えた。
その彼と正反対なのは、この私。
この梱包と箱詰め作業が終わってしまえば、もう彼と会う口実がなくなってしまう。