ガラスの靴じゃないけれど
「このパンプスが寂しいって訴えている気がするんだよ」
「寂しい?」
「ああ。靴が話すわけないのにな。可笑しいだろ?」
俯きながら片方だけのパンプスを磨き始めたのは、彼なりの照れ隠し。
でも、靴作りに真摯に向き合ってきた彼になら、靴と話くらいできるのではないかと思ってしまう。
「可笑しくないです」
「そうか?」
「はい。響さんの言う通り、このパンプスは持ち主に履いてもらいたいと願っているはずです」
片方だけのパンプスを磨いていた手を止めた彼は口元に笑みを浮かべると、私をじっと見つめた。
その彼の瞳があまりにも真っ直ぐで熱いから、まるで暗示に掛かったように身動きが取れなくなってしまうのだ。
胸に込み上げてくるのは、彼のことが好きだという単純な想いだけ。
このままこの想いを伝えたら、どうなるのだろうと考えていると、彼の腕が私に向かって伸びてきた。
私の頬を優しく包み込むのは、彼の大きな手のひら。
もっと彼の温もりを感じたい。
欲張りなことを思った私が顔を上げた先に見えたのは、徐々に自分に近づいてくる彼の顔だった。