ガラスの靴じゃないけれど
私が瞳を閉じれば、ふたりの唇は重なり合うはず。
ドキドキと鼓動を高鳴らせながら、ゆっくりと瞳を閉じようとした。
その時。店の扉が勢いよく開く。
「こんにちは。書留です」
元気な挨拶と共に店に姿を現わしたのは、額の汗を爽やかに拭っている郵便配達員さん。
心臓が跳ね上がった私は恥ずかしさのあまり、郵便配達員さんに背中を向けた。
もし、郵便配達員さんが書留を届けに来なかったら?
きっと私と彼は、くちづけを交わしていたはず。
ひと回りも年下の私のことを、彼はどう思っているのだろうと気になって仕方がなかった。
その私の背中越しに聞こえてくるのは、椅子から立ち上がって書留を受け取りに向かう彼の足音。
「ご苦労様」
「どうも、ありがとうございました」
あっという間に去って行った郵便配達員さんを見送った彼は、私が聞いてもいないのにポツリと声を発した。
「この前郵送した靴の代金だな」
ゆっくりと振り返ってみれば、彼はカウンターの横で受け取った書留を手にしながら癖のある黒髪を掻き上げていた。
「そ、そうですか」
「ああ」