ガラスの靴じゃないけれど
運命だとか支離滅裂なこと言い出したことも、自ら彼に抱き付いた揚句に押し倒すという大胆な行動を取ったことも、私が取り乱している証拠。
そのことを素早く見抜いた彼に耳元で優しく囁かれたら、NOとは言えない。
私は黙ったままコクリと頷くと、彼の胸に頬を寄せた。
「重くないですか?」
「ん?俺にとっては、いい感じの重みだ」
今日は密着率が高いことを不思議に思いつつ、そのことを密かに嬉しいと思っている自分が恥ずかしかった。
でも私の頭を優しく撫でてくれる彼の手の温もりは、とても心地良い。
彼のお蔭で高鳴っていた鼓動が、次第に鎮まっていくのを実感した。
「落ち着いたか?」
「はい」
「それで?何でそんなに興奮したんだ?俺にわかるように説明しろよ」
彼に支えられながら身体を起した私は、手にしていたポストカードを見つめる。
そのカードに書かれている彼女の名前を指でそっとなぞると、彼の瞳を真っ直ぐに見つめながら事実を口にする。
「岩瀬麗子。これは私の祖母の旧姓です」と。