ガラスの靴じゃないけれど
「もう!せっかちなんだから!」
彼がせっかちになってしまう気持ちは、もちろん理解できる。
でも少しは足の長さの違いを考えてくれてもいいのにと思いながら角を曲がると、腕組みをしている彼が私を待ち構えていた。
「誰がせっかちだって?」
「聞こえました?」
「ああ。バッチリとな」
彼に追い付くために、小走りをしていた私の息が軽く上がる。
その様子を見た彼は組んでいた腕を解くと、眉を寄せて申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「急かして悪かったな」
「い、いえ」
意地悪なことを言ったかと思うと、すぐに優しいこと口にする彼に胸がドキリと高鳴ってしまう私は単純だ。
やはり彼のことが好きだという気持ちが、一瞬のうちに胸一杯に広がった。
上がった息が整うと今度は急ぐことなく、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
その彼の心遣いを嬉しく思っていると、あっという間に家に辿り着いてしまった。
「ここが私の家です」
高い塀に囲まれた私の家を見た彼は、ついさっきまでは急ぎ足をしていたことが嘘のように動きを止める。
「おい。ちょっと待て。このガレージには何台の車が停められるんだ?」
「さあ。三台くらいじゃないですか」
「マジかよ...」