ガラスの靴じゃないけれど
何故、彼がガレージのことを気にするのか、私にはよくわからない。
「響さんって車に興味があるんですか?」
「いや。そうじゃなくてだな...。オマエって結構なお嬢様だったんだな。知らなかった」
彼は家とガレージと私を交互に見つめては、何度も頷く。
何が何だかさっぱりわからない私が首を傾げていると、彼は急に慌て出した。
「俺、こんな格好で来ちまったけど、大丈夫かな?」
彼が言うこんな格好とは、生成りのシャツにブラックジーンズを合わせたスタイルのことらしい。
「響さんのシンプルなスタイルは、私は好きですよ」
「そ、そうか?」
「はい。それに私の祖母は見かけで人を判断しませんから」
「そうだな。変なことを言ってすまない」
「いいえ」
安心したような穏やかな彼の笑顔を見ただけで、暖炉に火が灯ったように私の心が温かくなる。
パンプスの持ち主は、祖母で間違いない。
根拠などないけれど、彼と一緒だと気持ちが前向きになってしまうのだ。
「響さん。行きましょうか」
「ああ」
少しだけ緊張した面持ちを見せる彼と共に、私は家の門をくぐったのだった。