ガラスの靴じゃないけれど


何故、彼がガレージのことを気にするのか、私にはよくわからない。

「響さんって車に興味があるんですか?」

「いや。そうじゃなくてだな...。オマエって結構なお嬢様だったんだな。知らなかった」

彼は家とガレージと私を交互に見つめては、何度も頷く。

何が何だかさっぱりわからない私が首を傾げていると、彼は急に慌て出した。

「俺、こんな格好で来ちまったけど、大丈夫かな?」

彼が言うこんな格好とは、生成りのシャツにブラックジーンズを合わせたスタイルのことらしい。

「響さんのシンプルなスタイルは、私は好きですよ」

「そ、そうか?」

「はい。それに私の祖母は見かけで人を判断しませんから」

「そうだな。変なことを言ってすまない」

「いいえ」

安心したような穏やかな彼の笑顔を見ただけで、暖炉に火が灯ったように私の心が温かくなる。

パンプスの持ち主は、祖母で間違いない。

根拠などないけれど、彼と一緒だと気持ちが前向きになってしまうのだ。

「響さん。行きましょうか」

「ああ」

少しだけ緊張した面持ちを見せる彼と共に、私は家の門をくぐったのだった。


< 211 / 260 >

この作品をシェア

pagetop