ガラスの靴じゃないけれど
応接間のソファに腰掛けて、母親が出したアイスティーに口を付ける彼を興味津々に見つめるのは、私の家族。
日曜日の午後ということもあり、家には祖父母と両親が誰一人と欠けることなく揃っていた。
「そ、それで。きょきょきょ今日はどんな用かね?」
私が初めて男性を家に連れてきたせいなのか、普段は言葉がつかえることなどない父親が彼の前で軽くパニックを起こしている。
「実は」
「結婚の申し込みなら聞きたくない。悪いが今日は帰ってくれ」
まだ口を開いたばかりの彼の話を、父親はマッハの勢いで遮ってしまう。
いつもは威厳に満ちている父親が取り乱している姿を見た私は初めこそ驚いたけれど、すぐに可笑しくなり笑い声を上げてしまった。
「お父様。違うの。響さんはお婆様に用事があって来たのよ。もう。変な勘違いをしないで」
「そ、そうなのか?」
確認するように問われた父親に向かって、彼は静かに「はい」と頷いた。
「今日、こちらにお伺いした理由は若葉さんのお婆さんにある物を見ていただきたかったからです」
彼は紙袋に入れていた箱を取り出すと祖母の前に置き、ゆっくりとその蓋を開けた。