ガラスの靴じゃないけれど
彼が口にしたのは、私たちが初めて出会った日のこと。
確かに彼との出会いは運命だと思っているけれど、残念ながら私はそんなに早く恋に落ちてはいない。
「響さんの嘘つき」
まるで、悪戯っ子のような笑みを私に見せたのも束の間。
彼は真面目な表情を浮かべると、ゆっくりと顔を寄せてきた。
「キスしてもいいか?」
もちろん、私の返事は決まっている。
でも、唇を重ねる前に私が知りたいと願ったのは、彼の想いが自分と同じなのかということ。
「その前に響さんの気持ちを教えて下さい」
彼はあと数センチで唇が重なってしまう距離を保ちながら、私の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「俺は惚れた女にしかキスしたいと思わねえよ」
決して甘い言葉ではなかったにもかかわらず、身も心もとろけそうになった私の唇に彼の温かな唇が重なった。
その味を確かめるように触れた口づけは次第に熱を帯びていき、深く長く唇を求め合う。
キスに不慣れな私の想像をはるかに超えた彼の甘い口づけに、身体中の力が抜けそうになった、その時。
唇を離した彼が、砕けそうになった私の腰に手を伸ばして支えてくれた。
「もう降参か?」
余裕綽々な彼が少しだけ憎たらしい。