ガラスの靴じゃないけれど
仕事もプライベートも順調な私が気になっていることは、彼の将来。
お爺様が果たせなかった夢を叶えた今、彼が旅に出る必要は無くなった。
これから新しい店舗を探して、営業を再開させるのか。
それとも休養も兼ねて、やはり旅に出るのか。
今度の休みに荷造りの手伝いをしながら聞いてみようと心に決めながら、私は平日五日間の業務をこなした。
そして迎えた土曜日。
厳しい残暑が続く中、汗を掻きながら向かったのは光が丘北口商店街。
工事着工が迫り、商店街から引っ越しをした住民が多く、元々寂れていたこの場所がさらに静まり返ってしまった様子はゴーストタウンのよう。
でも久振りに彼に会えると思うだけで、足取りも自然と軽やかになってしまう。
『また来たのか』と、いつものように無愛想に言われるのか、それとも『よく来たな』と、甘く囁かれるのか。
彼はどんな風に私のことを迎えてくれるのだろうと、期待に胸を膨らませながら靴工房・シエナの金色の丸いドアノブに手を伸ばした。
でも......。