ガラスの靴じゃないけれど


もう癖になってしまったようにため息を繰り返す私を見て、佐和子先輩は心配げな表情を浮かべる。

「ほら。若葉ちゃん。もっと食べないと元気出ないわよ」

「そうですよ。そんなんじゃ、響さんって人が帰ってきた時に笑顔で迎えられないですよ」

私を励まそうとしてくれている有紀ちゃんの優しさを嬉しく思っても、どうしてもAランチのおろしハンバーグ定食を完食することはできなかった。

佐和子先輩と有紀ちゃんには、望月さんと別れたことを。

そして彼との出会いが運命であったことを打ち明け、その彼が私に何も告げずに姿を消してしまったことも話した。

「佐和子先輩。有紀ちゃん。心配掛けてごめんなさい」

「何言っているのよ。そんなこと気にしないで」

「そうですよ。今一番辛いのは若葉先輩なんですから」

ふたりの温かい言葉を聞いた私の視界が、ユラユラと揺れ出す。

今がたとえ昼休みでも、会社で涙を見せれば何事かと視線が集中してしまうだろう。

「ごめんなさい」

慌てて椅子から立ち上がった私は、食器とトレーを片付けると急いでトイレに駆け込み涙を流す。

身体の水分が無くなってしまうのではないかと思うほど泣いたのに、また瞳から零れ落ちる涙を拭いながら想うことは彼のことばかり。

「響さんのバカ」

どこにいるのかわからない彼に向かって八つ当たり気味にトイレで文句を言っても、さらに虚しさが募るだけだった。


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