ガラスの靴じゃないけれど
暑くもなく寒くもない、絶好の行楽日和の秋空が広がる日曜日。
私は部屋に引きこもり、何をするわけでもなくベッドの上に横になって部屋の白い天井を見つめていた。
彼が姿を消してからもう一ケ月以上が過ぎてしまった。
それなのに、依然として彼の行方はわからないまま。
力なくため息を付いて寝返りを打った時、部屋のドアをノックする音が響き渡る。
「若葉ちゃん。少しいいかしら?」
この声は祖母。
私の部屋を訪ねてくるなんて珍しいと思いながら、ベッドから飛び起きると急いでドアを開けた。
「お婆様?どうしたの?」
私が驚きの声を上げた理由は、約半世紀ぶりに両足が揃ったあのベージュ色のパンプスが入った黒い箱を祖母が抱えていたから。
「若葉ちゃんの足のサイズは私と同じ23センチだったわよね?」
「うん。そうだけど」
「ちょっと、このパンプスを履いてみない?」
にこやかな笑みを浮かべる祖母の提案に頷いた私は、ベージュ色のパンプスを履くために玄関へ向かった。